2015年12月18日

広報委員会研修会レポート ニッカウヰスキー株式会社様 工場見学

 秋分を過ぎ、北海道は早くも秋の訪れを感じさせ、観光のベストシーズンです。札幌から電車にゆられ1時間ほど、目的地に向かう車内は観光客で混み合っています。多くの観光客とともに降り立ったのは、昨年秋から放映されて話題となった「連続テレビ小説 マッサン」の舞台、北海道余市町です。

 余市駅からはじまる「リタロード」

 広報委員会では、毎年ガラスびんを積極的にご使用いただいているお客様や関連施設を取材しております。今回は、「第11回ガラスびんアワード」において、「スーパーニッカ」が日本ガラスびん協会特別賞を受賞いただきましたので、日頃のご愛顧と感謝を込めて、ニッカウヰスキー株式会社余市蒸溜所様を取材訪問させていただきました。

ニッカウヰスキー株式会社余市蒸溜所 正門

 趣のある正門をくぐったところで、私たち一行を、工場長 西川 浩一 様、総務部長 古屋野 義一様にお出迎えをいただきました。

(左)総務部長 古屋野 義一様 (右)工場長 西川 浩一 様

 いよいよ、総務部長 古屋野様ご案内のもと、場内の取材見学がスタートします。

 正門をはじめ、場内の9つの建物が、国の登録有形文化財に登録されているそうです。過去を読み取る貴重な建造物であると同時に、そのデザインや趣は、テーマパークのように訪れる人を目で楽しませてくれます。また、古きモダンな情緒ある場内は手入れが行き届き、タイムスリップをしたかのような雰囲気すら感じさせてくれます。

 ウイスキーは、下記のような工程で、長い時間と手間ひまをかけて、じっくりとつくられます。

麦芽 ⇒ 乾燥 ⇒ 糖化・醗酵 ⇒ 蒸溜 ⇒ 貯蔵・熟成

  それでは、ひとつずつ工程を追って見ていきましょう。

【乾燥】・・・乾燥棟

 第一の工程では、適当なところで発芽を止めるため、ウイスキーの原料となる大麦麦芽(モルト)を乾燥させます。場内には乾燥棟が残っていますが、今は使われておらず、40数年前から、スコットランドでつくられたモルトを輸入しているそうです。尚、この工程で、燃料であるピート(草炭)を燻して乾燥させることで、独特の香り(スモーキーフレーバー)がつくそうです。

【糖化・醗酵】・・・粉砕・糖化棟、醗酵棟

 細かく砕いたモルトを温水と混ぜ合わせることで、甘い麦汁ができあがります。日本酒では麹を使用しますが、モルトは芽に含まれている酵素によって糖化します。
 さらに、ろ過した麦汁に酵母を加えて発酵させると、アルコール分7~8%のもろみ(醗酵液)ができあがります。醗酵期間は、3日でも十分なところ、より深みのある味わいをだすために5日間かけているそうです。

【蒸溜】…蒸溜棟

 次の工程では、できあがったもろみを加熱し、アルコール分と香味成分を抽出します。ここで、「マッサン」でも登場したポットスチル(蒸溜釜)が活躍します。蒸溜は2回行われ、1回目(初溜)でアルコール分約23%、2回目(再溜)で約70%となり、その後水が加えられ、約63%で樽詰めされます。
 余市蒸溜所の最大の特徴として、石炭直火蒸溜を今でもおこなっています。現在はスチーム方式が主流であり、日本はもちろん、ウイスキーの本場スコットランドでも石炭直火方式が残っている蒸溜所はなく、おそらく世界で唯一だろうとのことです。石炭直火蒸溜により、ごはんのおこげのような香ばしさがつくといいます。また直火ならではの火力のゆらぎが、絶妙な味の複雑さにつながっているのかもしれません。

運よく、実際の作業を見学することができました。

石炭直火蒸溜

ポットスチル(蒸溜釜)

また、ポットスチルの首部分(ラインアーム)が下向きになっているのが、おわかりいただけるでしょうか。ニッカウヰスキーの中でも、余市蒸溜所は下向き、宮城峡蒸溜所は上向き、と違いをつけておられるそうです。余市蒸溜所では下向きを採用し、アルコールの逆流を防ぐことで、より濃厚な味わいを目指しています。宮城峡蒸溜所では上向きにしていることで、より軽やかな風味が出せるそうです。

さらに、ポットスチルについているしめ縄は、「マッサン」こと「ニッカウヰスキー創業者 竹鶴 政孝」の生家が造り酒屋であったことから、日本酒造りの風習にならっているそうです。

 ここで、少しウイスキーづくりから離れ、マッサンとリタにちなんだ場所を見学させていただきました。

 ここは、創業当時、実際に使われていた事務所です。その後も竹鶴会長がよく使用されていたことから、社員の方々は会長室と呼んでいるそうです。ドラマでは、マッサンとリタが結婚したスコットランドの登記所として使用されました。

 続いては、リタハウスと呼ばれる喫茶室です(※現在は閉鎖中)。昔は研究所として使用されていたようで、マッサンと肩を並べる余市の有名人、宇宙飛行士の毛利衛は、この研究所で働く研究員を見て、科学を志したとの逸話があるそうです。

リタハウス

マッサンとリタの家

 水色の壁がかわいらしいこちらの家は、マッサンとリタが実際に住んでいた家で、和洋折衷のデザインをしています。玄関にはアーチがあり、リタのスコットランドの実家をイメージしているそうです。

それでは、ウイスキーづくりの工程に戻りましょう。

【貯蔵・熟成】…貯蔵庫

 ここまで、いくつもの手間をかけてつくられたウイスキーですが、樽に詰めて貯蔵し、さらに長期間熟成させることではじめて完成します。貯蔵には下記のようなポイントがあるそうです。

・風味を損なわないために、熟成は冷涼な方がいい
・樽の目が開いてしまうので、湿気があって乾燥していない方がいい
・床はすべてコンクリート造りにするのではなく、土の部分を残していた方がいい

 

 年間平均気温8度という余市の涼しい気候や、周辺の海、川が、ウイスキーの熟成にぴったりの条件を生み出しているのですね。余市蒸溜所では26の貯蔵庫があるそうで、その中ではたくさんのウイスキーが、おいしく熟成されるのを静かに待っています。

 見学は、2つの博物館、ウイスキー館とニッカ館へと続きます。ウイスキー館では、ポットスチルや樽とともにウイスキーづくりがわかりやすく紹介され、ニッカ館では、リタとマッサンの軌跡や、歴代のウイスキー、CMや広告の歴史が展示されています。

ポットスチルと「ヒゲのおじさん」

ニッカウヰスキーの歴史資料

 第1号のウイスキーを発見しました。昭和15年10月に、当時の価格7.50円で発売されたそうです。温かみのある琥珀色は、今も昔も変わりませんね。

 以上で、ニッカウヰスキー株式会社余市蒸溜所様の見学は終了です。マッサンとリタの情熱と、冷涼で清らかな余市という土地、石炭直火蒸溜の技法を守る職人の方、そしてニッカウヰスキーを愛する社員の方々の力で、ウイスキーのおいしさは今に受け継がれているのだと感じました。この情熱の結晶を皆様に届ける器として、ガラスびんも、ウイスキーとともに、これからももっともっと活躍していきたいと思います。

貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました。