審査員インタビュー

変わりゆく時代の中
未来に向けてこれまでのガラスびんアワードを振り返る

持続可能な社会をめざし、人々の意識が少しずつ変化している中、新型コロナウィルスの影響により、生活の在り方や関わり方を根底から覆す事態に遭遇しています。ガラスびんアワードの授賞式も2年連続で開催できませんでした。奇しくもこの3月で東日本大震災から10年が経過しており、世の中を揺るがした2つの災は、人々のライフスタイルや考え方に、大きな影響を与えたように思います。
より環境に目を向け行動するようになったり、安全・安心な暮らしを追求したり、シンプルな生き方やていねいな生き方をめざすようになったりと、変わりゆくこの時代の中、未来に向けて、これまでのガラスびんアワードを振り返り、審査員長のリリー・フランキーさんと審査員の富永美樹さんからメッセージをいただきました。

―東日本大震災の翌年に開催された授賞式において、リリーさんから「最優秀賞の宝焼酎『JAPAN』のような強いテンションの作品が、震災後の今の世相に求められており、また、人々に勇気を与えるのではないかと思う」というようなメッセージをいただきましたが、コロナ禍の中で選ばれた今回の最優秀賞作品への想いをお聞かせください。

環境性に優れたガラスびんの役割はすごく大きい!

【リリーさん】
あの「JAPAN」が最優秀賞をとった時と今回の「蔵べる シリーズ」の受賞は、精神構造としては同じじゃないでしょうか。なにか災いが起こった時にはその出来事を反映した商品が出てくるのだと思います。あの震災の時には「JAPAN」に応援のメッセージが込められていたかもしれませんが、今回の「蔵べる シリーズ」はたくさんの酒蔵が協力し合って作り上げたというところに、大きな意義があると思います。

第8回ガラスびんアワード
最優秀賞 宝焼酎「JAPAN」
宝焼酎「JAPAN」〈純金箔入〉
宝焼酎「JAPAN」〈DELUAX〉

【富永さん】
力を合わせなければ乗り越えられない時代なのかもしれませんね。

【リリーさん】
今、コロナ禍に関係なく、旧態依然としているものが崩壊していく時期のような気がします。スーパーやコンビニでレジ袋が有料化され、みんながエコバックを持ち歩くようになり、どれだけプラスチックを減らしていけるかという世の中になってきています。今がその始まりの時で、これからスピードを増していくのではないでしょうか。そのような意味でも、環境性に優れたガラスびんの役割はすごく大きいと思います。

【富永さん】
「地球に暮らしているのは、人間だけじゃないんだよ!」ということをもっと考えなければならないと思いますね。

【リリーさん】
買い物かごを持って市場に行って魚を古新聞に包んでかごに入れていた時代は、ものすごくエコロジーだったと思うし、そのようなことが今一番必要とされることかもしれない。

【富永さん】
あの頃はかごだったかもしれないけど、今はエコバッグですね。

―この変わりゆく時代の中で、ガラスびんアワードのこれまでを振り返って、どのようなことを感じていますか? また印象に残っているガラスびんはありますか?

【富永さん】
2014年の最優秀賞、月桂冠純米吟醸のびんは、まだキッチンに置いてあります。江戸時代の流行色である“璃寛茶”(りかんちゃ)を使っていて、初めて見る色調のびんでした。形も可愛くて気に入りました。

第11回ガラスびんアワード
最優秀賞
ヌーベル月桂冠 純米吟醸

【リリーさん】
こうやって、最優秀賞に選ばれたびんを眺めると、そんなに華美なものはないですね。

【富永さん】
比較的シンプルなものが多いですね。

【リリーさん】
シンプルなびんだからこそ、手に取った時にガラスの力を感じますね。

見た目にも触ってもびんらしくないものが、びんであることの安心感が凄い!

【リリーさん】
2012年の最優秀賞のニベアは、見た目にも触ってもガラスびんじゃないように感じました。

第9回ガラスびんアワード
最優秀賞
ニベアフォーメン
リバイタライジング ローションQ10
リバイタライジング ローション バームQ10

審査会の様子

【リリーさん】
もう、ぱっと見、びんじゃなくていいんだ!という感じ。

【富永さん】
あれで、ガラスびんの概念を変えられました。びんは色が付いていても中が見える透明なものだと思っていたのですが、えっ、これがびんなら、何でも有りじゃないかと、驚きました。衝撃的でしたね!自分が知っているびんじゃない!という感じでした。

【リリーさん】
なにか、びんらしいびんを求めていたのですよね。でも、びんがどんどん薄くて軽くて強さも兼ね備えて、何でもできるという可能性をあのニベアのびんを見て感じました。

【富永さん】
その何年か後に最優秀賞をとったハンドウォッシュのびんも、陶器だと思ってしまいました。びんは変幻自在で、その可能性は底知れないですね。

【富永さん】
あのびんは、私が初めて審査員を務めた時だったので、よく覚えています。なんで、この容器がここにあるの?という感じで、不思議でした。

【リリーさん】
見た目にも触ってもびんらしくないものが、びんであることの安心感は凄いと思います。あれは、まさにガラスびんの新時代を見たように感じました。

【富永さん】
私もそう思いました。えっ、ちょっと待って!という感じでしたね。

第12回ガラスびんアワード
最優秀賞
フラワー・パフュームド ハンドウォッシュ
ローズ/ジャスミン/ミモザ

プラスチックだったものがガラスびんに代われるのでは

【富永さん】
安く作れるとか、お手軽・便利とかで、プラスチックのものが多く使われるようになったけれど、自分たちの安易な生活を見直す時期になってきていると思います。そこで、デザインもさることながら、びんが軽くなって機能性も向上してきているのですから、プラスチックだったものがガラスびんに代われるのではないでしょうか。
今、ようやくその土壌が世界的に整ってきたと思うのです。やはり日本も2050年に向けて温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指しているのですから、びんが果たさなければならない役割は、非常に大きいと思います。びんに期待している人も増えていると思いますよ。

―人々の思考や暮らしぶりが変化していく中で、容器に対してどのようなことが求められていると思いますか? ガラスびんはその希望に応えられる容器だと思いますか?

【リリーさん】
今回エントリーされた商品の中に、黒い甕(かめ)の形状のびんがありましたが、あれは本当の陶器よりも美味しそうに見えますね。ガラスびんに入っていると安心で、急に美味しさを感じるんでしょうね。

【富永さん】
中味が透けて見えるところが美味しさをそそるというか、飲んでみたくなりますね。

第17回ガラスびんアワード
一次審査通過商品
芋焼酎 甕雫KURO

SDGsが意識される時代に、より地球環境に貢献しやすいびんが望まれる

【富永さん】
中味が美味しそうに見えることも大切ですが、この時代はやはり環境を意識してリユースやリサイクルしやすい容器であることも重要だと思います。
これから未来に向けて、企業はもちろん一般の人たちもSDGsを意識して、いろいろ学んでいくと思います。地球環境に貢献したいとか、地方で暮らすことを楽しむとか、今の時代背景ならではの、新しい感性を持った人たちがたくさん出てきているので、そのような人たちが購入しやすいびん入り商品になっていると、やっぱりびんは凄いなって思ってもらえると思います。

【リリーさん】
びんも全部が再利用されているわけではないと思うので、このような問題は国をあげて考えていかなければならないですね。まずはプラスチックを減らして、その代替となるガラスびんで再利用できないものを減らすためのシステムをつくっていくことが大切ですね。

―高度な製造技術によりガラスびんが軽量化され、また高度なコーティング技術や印刷技術により装飾が施され個性的なガラスびんが登場しています。このようなガラスびんの進化について、どのように思われますか?

【リリーさん】
コーティングや印刷の技術が向上して、ガラスびんに見えないびんもたくさん作れるし、デザイン性や変化性が最高峰にまできているのではないでしょうか。もうこれ以上のことをする必要がないところまで技術が達しているように思います。あとはやはり強さと軽さですね。それも、もうかなりのところまで来ていると思います。そうなると、その次が楽しみですね。

―これから先のガラスびんまたはガラスびんメーカーに、どのようなことを期待しますか?
ガラスびんにはどのような可能性があると思いますか?

地球の未来は自分たちが創っていくのだ!くらいの気持ちでびんをつくってほしい

【リリーさん】
これからのガラスびんメーカーは、未来を形成していく役割を担っていると思います。だから率先して仕掛けていくべきですね。たとえば、プラスチックがフリースとかラグマットなどに再利用されていますが、やはり限界があると思います。それに比べガラスびんは全てリサイクルやリユースが可能だと思うのです。ですから、びんのリサイクルやリユースの推進について、ガラスびんメーカーから、国にどんどん提案して行っていただきたいですね。

SDGsが意識される時代に、より地球環境に貢献しやすいびんが望まれる

【富永さん】
まさにその通りだと思います。地球の未来は自分たちが創っていくのだ!くらいの気持ちで素敵なガラスびんを作り続けていただくのが一番素晴らしいと思います。それくらいの役割をガラスびんは担えると思います。

【リリーさん】
今、口にするものの容器で、びん以外の素材じゃなきゃ困るものって、あまりないですね。
だから、全てガラスびんにシフトしてもいいのではないでしょうか。

【富永さん】
びんが軽くなれば、今PETボトルで並んでいる商品が全部びん入りになるのでは。そうなればどれだけ素晴らしいかって、ずっと思っています。

PETボトルと同じように使えるびんができたら、凄くいい国になりそう

【富永さん】
こんなに飲み物がPETボトルに入っている国って、日本だけじゃないのかなぁ。ヨーロッパとかはびんに入っているものが結構多いと思う。びんが負担の少ない重さになって持ち歩けるようになったら、きっと廃棄する時にしっかり分別して、よりリサイクルが進みそう。PETボトルと同じように気軽に使えるびんができたら、いい国になりそうな気がします。

【リリーさん】
でも、この何年か、ガラスびんが軽くて強くなっていく進化は凄いと思うなぁ。

【富永さん】
より薄くて軽いガラスびんが登場して、うまく機能したら、あっという間に代わると思いますね。

【リリーさん】
PETボトルのイメージが強いブランドがガラスびんで登場したというのは、2年前の最優秀賞「い・ろ・は・す グラススパークリングウォーター」でしょうね。

第15回ガラスびんアワード
最優秀賞
い・ろ・は・す グラススパークリングウォーター

【富永さん】
あのようなびんで、キャップができて、もうちょっと軽かったら、まったく抵抗がないと思いますね。

【リリーさん】
なかなか水の容器がびんにシフトするのは難しいかもしれない。でも、できるところからどんどんびん化していけばいいと思う。

【富永さん】
プラスチック廃棄物のうち容器包装が約7割ですよね。日本は海外と比べてもとくに多いんじゃないですかね。コンビニなどのお弁当のプラスチック容器をガラス製に代えるのは難しいけど、飲み物だったら可能性は非常にあると思います。
持続可能な社会へ機運が高まる中、まさに今がガラスびんへの代わり時ではないでしょうか。

ガラスびんの未来に向けて、たくさんの有意義なメッセージをいただき、ありがとうございました。