第18回ガラスびんアワード 2022 最終審査を終えて

去る2月3日(木)、第18回ガラスびんアワード2022の最終審査が行われ、厳正な審査により各賞が決定しました。

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審査の後、審査委員長のリリー・フランキーさんと審査委員の富永美樹さんにお時間をいただき、今回のガラスびんアワードの審査を振り返っての感想や商品の傾向などを伺いました。さらに日本ガラスびん協会の広報委員の質問にも独自の視点で答えていただきました。

―ガラスびんアワードにエントリーされるガラスびんは、その時代を反映しているように思われます。前回はコロナ禍で生まれた商品、SDGs関係の商品が注目されましたが、今回は時代を映し出すどのような商品が目に留まりましたか?

遊び心をカタチにしやすい時代になってきている!

【リリーさん】
今回に限ったことではなくこの何年か傾向が強いなと感じているのが、小さな会社が独自のデザインで商品化していくという状況が続いていますね。クラフトジンの多様化はまさにそう。
昔はみんなの目に留まる商品というのは、ある程度大きな会社が作っていたような気がします。このアワードにしても、最初の頃と比較すると、中小規模のエントリーが増えてきました。今回の優秀賞「蔵女 the kurajo.」や「百花百獣 謹白」にしても、小規模なメーカー、ブランドが容器を自由にデザインできる時代になってきていると思います。

第18回ガラスびんアワード 2022
【優秀賞】
酒楽。(株式会社バウハウス)
「蔵女 the kurajo.」

第18回ガラスびんアワード 2022
【優秀賞】
株式会社SUPLUS(サプラス)
「百花百獣 謹白(ひゃっかひゃくじゅう きんぱく)」

【富永さん】
会社の上層部にいろいろ言われずに、意見を自由に通せる環境があるのかもしれませんね。

【リリーさん】
そうそう、クラフトジンの「和美人」のガラスびんも、すごくデザインで主張しているし、「Pigment ink」もそうですね。文房具屋さんが作るような感じで、大手の会社だとなかなか作れないような気がする。

第18回ガラスびんアワード 2022
1次審査通過商品
本坊酒造
「Japanese Gin 和美人」

第18回ガラスびんアワード 2022
1次審査通過商品
カキモリ(株式会社ほたか)
「Pigment ink」

【富永さん】
商品が多様化している時代なのだと思いますね。

【リリーさん】
小さなメーカーが自己主張するために、ガラスびんのデザインがすごくいいカタチになっている。この「蔵女 the kurajo.」は大量生産するのは難しいですよね。

【富永さん】
小規模の会社だからこそできる冒険みたいなものが、たぶんカタチになっているのだと思います。

【リリーさん】
世界的にもこの何年か、全てにおいてクラフト感に対して再評価する状況があります。

【富永さん】
どんな会社にもチャンスはあるのでしょうね。大きな会社じゃなくても、店頭に商品を置かなくてもネットで販売できる時代だから、チャンスは広がっているように思う。商品も多様化してきているし、遊び心をカタチにしやすい時代になってきている。急に何に火が点くかわからない!

【リリーさん】
あの「AMAMI RABBIT」もそうなのだけど、ドメスティックなところに頑張ってほしいですね。だから頑張っている小さなところを支援することが大切だと思う。小さなところがデザインで頑張っていると、大手も頑張ろうとするし、相乗効果でいい状況になっていくと思います。

第18回ガラスびんアワード 2022
【リリー・フランキー賞】
株式会社奄美大島開運酒造
「AMAMI RABBIT」

環境賞は最優秀賞と同じくらいの意味合いがある!

【リリーさん】
それから、このアワードの審査も長く続ける中で、世の中の状況も変化してきて、ガラスびんの持つ使命というものが、大きく変化してきたように思います。特にこの2・3年ですね。環境やSDGsについて意識が変わってきて、ケアがやっと始まったと思う。ガラスびんという容器が、環境に対して一番配慮ができるのに、日本はプラスチック大国になっている。だからこそ、ガラスびんアワードの環境賞は、最優秀賞と同じくらいの意味合いがあると思います。

―ガラスびんの成形技術によるガラスならではの表現力で、印象に残った商品はありましたでしょうか。

最優秀賞の「創家 大坂屋 純米大吟醸720ml瓶詰」のびんは圧倒的に美しい

【リリーさん】
何といっても最優秀賞はガラスの美しさが表現されていました。今回の最優秀賞は決めやすかったですね。ガラスびんのデザインという観点でも、群を抜いて良かったと思います。あまり見たことのないガラスの色も美しいし、高級感がありますね。

【富永さん】
ほんと美しいと思います。私のガラスびんコレクションに加えたい一本ですね。

第18回ガラスびんアワード 2022
【最優秀賞】
大関株式会社
「創家 大坂屋 純米大吟醸720ml瓶詰」

―ガラスびんの印刷やコーティングの加工技術による表現力で、とくに気になった商品はありましたか?

【リリーさん】
やはり「百花百獣 謹白」の漆器みたいなことができる技術はすごい。驚きがありますね。

【富永さん】
あの仮面ライダーが印刷されたガラスびんも気になりました。とてもリアルでしたね。

第18回ガラスびんアワード 2022
1次審査通過商品
ウララキューブ
「日本酒 仮面ライダー1号&2号」

【リリーさん】
CHOYAの金色にコーティングしたガラスびんはインパクトがあったね。やり切ったデザインには力があると思います。デザインはセンスを求めすぎると脆弱になることが多いです。どこか振り切っているデザインはとても強いと思います。

第18回ガラスびんアワード 2022
1次審査通過商品
チョーヤ梅酒株式会社
「The CHOYA WINNERS 2020」

ここで、日本ガラスびん協会の広報委員の方々に審査委員のお二人に質問を投げかけていただきました。

―ガラスびんアワードの運営に参加して3年になります。毎年「今」を感じる商品が見受けられます。自身もメーカーに勤める者として、既視感を感じない「新しさ」とは何かと考えます。リリーさんや富永さんは、新しいモノやコトを取り入れるために、普段から意識されていることがあれば、教えてください。

新しいモノを取り入れようと思うと、だいたい見透かされるものになってしまう

【リリーさん】
自分は、なんか新しいモノを取り入れようと思ってないかもしれない。新しいモノを取り入れようと思うと、だいたい見透かされるものになってしまうから。新しいものを取り入れるよりも、自分の中にあるベーシックなものをどう組み合わせていくかを考えます。
自分が作るものには、今のデザインと今自分が生活しながら見ている風景が絶対盛り込まれるわけなので。
アワードにエントリーされた商品を見ると、新しいモノを作ろうとしている商品ほど力んでいるように感じます。新しいということは、オリジナリティを持っているということだと思います。

【富永さん】
私自身も、新しいモノを取り入れなければという意識は、あまりないですね。自分が心惹かれるモノや興味あるコトに、全力で向かっていくような感じ。偶然的に生まれるデザインとかナチュラルな情景など、意図的に作られないものから、生きるヒントをもらっているような気がします。

【リリーさん】
時々モノづくりをしていて、すごく勘違いしてしまうのが、新しいモノという考え方が、発明することだと思ってしまうこと。発明しようと思っていると、それはもうクリエイティブじゃなくなると思いますね。

―国内需要が縮小する中、中身メーカーは海外市場を志向しています。その際ガラスびんとしては、主にデザインの面で、海外市場で選ばれるために何をするべきと思いますか?

おみやげ物を作っているのか、お酒を売っているのかを意識することが大切

【リリーさん】
お酒に関して言うと、海外に売ろうと思ってデザインで和を強くしてしまうと、それはお酒を好きな人に売るというのではなく、おみやげ物を作っている感覚だと、私は思います。だからお酒が好きな人に売りたいのなら、中身が美味しいものを作るしかない。逆におみやげ物感覚のパッケージにしたら、本当にお酒が好きな人は届かないと思います。

ジャパニーズ・ウイスキーがブームになってとても高額なものが出回っていますが、それは中身があってのこと。やはりおみやげ物は、価格に限界があるから、そこをアピールし過ぎると、デザインが中身を低く見せてしまうと思いますね。だから海外に打って出る時には、おみやげ物を作っているのか、お酒を売っているのかを意識しないといけませんね。一番分かっているのはお客さんなのだと思います。

【富永さん】
短期間勝負で火を点けたいなら、THE JAPANで日本を強く打ち出した話題性あるデザインでもいいのかなと思います。リピートされて長く売りたいのであれば、中身が美味しくなかったら続きませんね。
皆さんはガラスびんを作っている会社の方々なので、中身の美味しさをいかにパッケージでサポートするのかが大切なんですよね。

【リリーさん】
先ほどの発明の話と同じで、何かを訴求するために人がやったことがないことを考えようとすると、デザインは行き詰る。だから精度を高めるほうがいいと思います。デザインというのはアイデア一発で乗り切ろうというのは無理ですね。アイデアに対する精度を高めていかなければならない。アイデアだけでやっていくのが、おみやげ物の考え方かな。

【富永さん】
海外のガラスびん会社にはできない技術が、日本のガラスびん会社にできたら、それは武器になると思う。ガラスびんの珍しさから買ってしまうこともあるかもしれませんね。

―お二人は仕事柄、様々な世代の方と関わりがあると思いますが、物事の見方や価値観など、世代間でのギャップを感じることはありますか?

インターネットツールにより、感性の世代間ギャップは埋まっているかもしれない

【リリーさん】
世代間のギャップは感じますよね。この20年から30年、私たちは一番世代のギャップを感じてしかるべきおじさんとおばさんになったのかなと思う。たぶん世界中が一番過渡期なんですよね。このインターネット前とインターネット後を知っている世代なわけです。生まれて物心ついた時からスマホを触っている人たちと調べ物を図書館に行って探していた人たちと、この世代間ギャップというのは一番あってしかるべきですね。

育ち方とかまわりのツールとかが圧倒的に違う20年だったけど、世代間ギャップを感じなくてもいいことも増えていると思う。例えば、若い人はレコード屋でレコードやCDを買うという発想を持っていない。サブスクリプションのデジタル配信で音楽を聴き、若いミュージシャンが昨日発表した曲と私たちが昭和の時代に聴いていた曲が同じネット上に乗っているんですよ。若い人にとっては同じ端末で聴いているから、どっちが「古い・新しい」じゃないわけです。

【富永さん】
今の若い人たちに昭和歌謡が人気だったりしますよね。

【リリーさん】
そう、自分の端末で昭和歌謡も最先端の音楽も聴けるのだから、「古い・新しい」じゃなくて「良い・悪い」なんですよ。「良い・悪い」しかないから、すごくバランスのいい耳になっていると思うな。

【富永さん】
確かにインターネットツールのおかげで、全ての年代が等しくならされている状況はありますね。

【リリーさん】
だから、そういう意味では、感性の世代間ギャップは埋まってきているのかもしれない。

今年のガラスびんアワード の審査を振り返りながら、新たな視点を感じるメッセージをたくさんいただき、ありがとうございました。

時代の流れ、人々の趣向性、トレンド、技術の進化が折り重なって、ガラスびん商品は開発されて、日々皆さまの手に届いています。

さぁ、次のガラスびんアワードではどのような商品に出会うことができるのでしょうか!

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