味にとことんこだわるイタリア人、ガラスびんはキッチンの必需品 ~イタリア

スーパーの棚に並ぶたくさんのガラスびん

スーパーで買ったガラスびんを運ぶマンマ達

ガラスびんはキッチンには欠かせない存在

棚に並べて美しいことは重要なポイント

南イタリアへ嫁いだ日本人の知人が、家族の一番大事な行事と言っていたのが「トマト・ペースト作り」。毎年トマトの収穫期が来ると、ファミリーの女達が総出で一年分のトマト・ペーストを作るのだそうだ。「まだ下っ端の私の担当は“びんを洗う”こと。といっても5家族が一年で消費するトマト・ペーストの量は半端じゃないでしょう?それこそ数えきれないぐらいのびんを洗ったわ」。彼女の話によると「新鮮なトマトで作ったペーストを一年間しっかり保存しておくには、密閉性が高く味が変質しないガラスびんが一番」なのだそうだ。この話に象徴されるように、イタリア人の台所とガラスびんは切っても切れない関係にある。

パスタに使うトマト・ペースト、オリーヴ・オイル、ワイン、ジャム、アチェト(酢)、野菜の酢漬けなどなど、ガラス容器の食材達はイタリアのキッチンににぎやかな彩りを添えている。スーパーにはもっと軽そうな紙やプラスチック容器の商品があるにもかかわらず、マンマ達は重いガラスびんをいくつも買い込み、ショッピング・バッグをぱんぱんにして持ち帰る。
「毎日の買い物は重労働よ。でも美味しくなければ食べる意味がないでしょ?」
文句を言いつつも決して妥協せず、汗をたらして重い買い物袋を運ぶマンマ達の笑顔の奥には、味と質にとことんこだわるイタリア人の誇りが隠されている。

こうして家庭のキッチンへと運ばれたガラス容器は、何度も洗って再利用される。見かけの派手さとは対照的に、暮らしぶりは質素で現実的なイタリア人の日常生活では“何度も洗って使える”利便性の良さは重要なポイント。さらに“棚に並べて美しい”というのも大切な要素である。

ローマには2年前に、世界の名水を集めたレストラン『アクア・ネグラ』が登場した。デリケートな水の味を保存する美しいボトルの数々を壁一面に並べ、その斬新でモダンなインテリアでも話題を呼んでいる。
味と利便性と美しさ。イタリア人の暮らしの美意識にぴったりあったガラス容器は、マンマだけでなく現代の若い世代にも根強く支持されている日常生活の必需品なのである。

世界の名水を集めたレストラン「アクアネグラ」ではガラスびんが壁一面に並ぶ

田島麻美さん
旅行作家。ローマ在住。イタリアの奥深い歴史とカオスまみれの日常生活に魅せられ、旅、食、暮らしをテーマに執筆活動中。主な著書に『南イタリアに行こう』、『ミラノから行く北イタリアの街』、『ローマから行くトスカーナと周辺の街』(いずれも双葉社刊)。